その他:結納って何?

  結納の歴史

中国 清皇帝の六礼による婚儀


  結納の歴史は古代中国までさかのぼります。

  中国では、西周の時代(紀元前1046年〜紀元前771年)にはすでに厳格な婚姻の規定があり、それが、漢の時代(紀元前202〜)に至って「六礼」という6段階の婚礼手続きとして完成されました。
  以来、中国では数千年の間、「六礼」が伝統的な婚礼の範例となっています。

  日本 では、古代の貴族社会で婚姻儀式が整えられていく中で、この「六礼」が取り入れられました。
禮記


  「六礼」の内容は、紀元前475年〜紀元前221年に成立したとされる中国の書物「禮記(らいき)」に記されています。
  「禮記(らいき)」は「礼記」とも書き、四書五経の一つ「礼経(禮経)」についての注釈本です。

  「禮記」の中の「昏義」という婚姻に関する専門の章(「昏」は仮借漢字で、「婚」と同じ意味)で、「六礼」=「納采、問名、納吉、納徴、請期、親迎」として次のように定められています。
六礼
  「納采」・・・男性側が仲人を介して女性側へ礼物を贈り、求婚をすること。礼物を受け取ることで求婚承諾とする。
  「聞名」・・・女性側へ礼物と招待状を届け、吉凶を占うために女性の姓名と生辰(誕生日等の詳細)を尋ねること。
  「納吉」・・・男性側が自邸の先祖位牌の前で占いをし、結果を女性側に教えること。
  「納徴」・・・占いの卦がよければ、女性側へ貴重品の礼物を贈り、正式な婚約とする。
  「請期」・・・男性側が結婚式の期日を選び、礼物とともに女性側へ伝え、女性側の承諾を待つ。
  「親迎」・・・新郎と仲人が礼物を持って女性側へ出向き、花嫁の親と先祖祠堂に排謁し、花嫁を花車に乗せ男性宅へ迎え入れる。


この中の「納采(のうさい)」が、日本の「結納」に取り入れられ、現在でも皇室では「納采の儀」として執り行われます。
仁徳天皇陵


  日本の結納の起源は、西暦400年頃の仁徳天皇の時代、皇子が妃を迎えるときに贈り物をしたのが始まりと云われ、これが結納の一番古い記録とされています。

  やがて、室町時代になり、小笠原家 など武家礼法の諸流派が、平安時代に貴族が行っていた婚礼儀式をもとにして 武家の婚礼制度 として確立しました。
  それが江戸時代以降に次第に庶民に広まり、現在の結納の元になったと考えられます。

江戸時代の婚礼


  平安時代の結婚は「婿入り婚」でした。
  女性宅で結婚式を行い、そのまま男性が嫁側に婿入りし、嫁側の家で労働をすることで嫁側の家計を助け、ある程度の期間が過ぎてから、あらためて女性を婿側の家に迎えるという形です。婿入りの期間、夫は妻宅に同居するのではなく、妻の住まいへ訪ねる形であることから、「妻問い婚」「通い婚」とも言います。

  それがやがて、「足入れ婚」という形に変わりました。
  嫁入りとして結婚式は男性宅で挙げますが、すぐに嫁は実家へ戻り、しばらくは「婿入り婚」と同じように夫が妻宅へ通う形です。
  そして時代が下がり、江戸時代ころになると、男性が家を長く空けることによる不都合から、男性側から女性側へ金品を贈り、女性が嫁入してそのまま夫宅に同居する現在の形へと変わってきました。

  したがって、もともと「結納」は、“「婿入り婚」をせずに男性側の家にすぐに入っていただくことへの感謝の気持ち”を込めた挨拶として、高級品や縁起のよい貴重品を贈ったものです。
武家の結納    「類聚婚礼式」より


  現代の結納につきものの「結納金」は、正しくは「小袖料(こそでりょう)」「御帯料(おんおびりょう)」「御袴料(おはかまりょう)」等の名称で、本来はお金ではなく、嫁入り衣装を用意して頂くための白無垢の着物用の生地や帯、男性用の袴の生地を贈っっていました。

  それが、時代が下がって、現物の代わりにお金を贈るようになったものです。

  また、冷蔵庫の無い時代には、保存食はとても貴重品で、中でも「延しアワビ(平たく伸ばした干しアワビ)」・「スルメ」・「昆布」は最高級の保存食でした。また、魚介類は「なまぐさもの」として魔よけの意味があり縁起が良いとされています。
  そのような意味で、それぞれ「延しアワビ」⇒「熨斗」、「スルメ」⇒「寿留女」、「昆布」⇒「子産婦」と言葉を置き換え、縁起の良い贈り物として結納の品に用いられてきました。
現代の結納


  「結納とは、女性側へお金を渡すことだ」と短絡的に考えている方や、極端な例では「男尊女卑、人身売買」などと勘違いされている方がありますが、全く違います。

  「大事なお嬢さんを嫁がせて頂きありがとうございます」
  「これで衣装を調えて、どうぞお嫁に来てください」

という、相手方を思いやる感謝の気持ちを形にしたものが結納の本質です。

  また最近では、キリスト教式の「婚約式」と対比させて、「結納は日本の神道の儀式」と勘違いされている方もあるようですが、これも全く違います。
現代の結納(略式)

  「結納」 は小笠原家などが儀式として整えてきた経緯からわかるように、和室での礼儀作法や節句のお祝いなどと同質の「日本の伝統文化」であり、「あいさつの作法」です。

  雑誌やハウツー本、ネット上で、時々間違った知識を掲載している場合がありますので、ご注意いただきたいと思います。

  現代の結納は、伝統的な飾りから地域性のない簡単なものまで様々なタイプがあり、場所も、自宅だけではなく結婚式場やホテルを利用するなどの幅広い選択肢がありますので、金銭的にも気持ち的にも両家があまり無理をせず行えるようになってきました。
  どんな結納でも、結納の本質である「感謝の気持ち」を大切にして頂ければ、両家にとって縁起の良い円満な結納になると思います。